炎天の下、転ばないように歩くだけで精一杯、市ケ谷駅でトイレの中に篠笛を落としてしまい、湿っていたせいか、先生に「いい音が出てきた」と言われ、毎日、自分にがっかりしながらも、前向きに生活する。
寝苦しい夜、川端康成『眠れる美女』を一気に読み、ついでにオリエント工業ラブドールの新商品を検索し、くすっとする。
主人公の江口老人は、昔の旅荘のような怪しげな宿屋に足繁く通い、深い眠りにあり意識がない少女に触れながら、添い寝して朝を迎える。
検番に近い宿屋、管理人のおばさんは犯罪の影濃く、江口老人好みの眠れる美女を用意するが、溺れていく江口老人に不安でもある。
川端が自死にむかっていくことを予想させる作品で、ふと河野多恵子『半所有者』を思い出した。
母のいる施設は、男性がひとりだけとなり、元気だった頃「おさねさん」と云われ、最近は背が丸まり俯いていることが多く、酷暑を越えられるか気がかりだ。
エアコンと扇風機と犬のイビキが響き、男と女の間にある深くて暗いなにかは何かと考える。
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