職人わくわく - Wakuwaku Workman -

−令和元年10月号−

只々雲を見上げて伏見の裏道を歩いていた。
そこに「富英堂」の暖簾と木型が見え、これは本物だと思い、店に入った。
明治28年から続く老舗であることが、そこかしこに感じられ、暖簾の真ん中が擦り切れていて、何百万回も家族代々の手が触れ、のれんが息をしているような気がした。
美味しいものは、今日中に食べなければならないもの、だから世間に広まらないものだ。
川風に吹かれながら「栗むし羊羹」を食べていたら、橋の袂に止まったトンボが睨んでいた。